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    今回も、自己満足なだけのオリジナル。やっと、蹴りつけれた。
    でも、当初考えてた、夕梨が陰形のために、う歩をするとかの要素が
    盛りこめなかったな。
    (まー、その頃「魍魎の匣」見てたの丸分かりだし、かえってよかったのかも。)

    しかも、まだ今回で終わってないし。(とゆーか続きを書きたくなった。)

    前回の「10 years after」からの続きです。
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/349/
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ラギヨイ・アチントヤ (16)in the dream

    「どうなってんの? これ」

    時刻は18時過ぎ。土成くん家についてみると、異様な状態になっていた。
    周りでは雨が降っているのに、この家にだけ降っていないのだ。
    それだけではない。家の至る所から湯気が出ていた。

    「もしかして火事? だったら110番、じゃない119番しないと」
    「うーん。もしかして、この湯気が原因で上昇気流が生じて、
     上空で冷やされた結果、周囲に雨が降っているのかな?」
    「とりあえず、火の元というか、湯気の原因を探ろう。」
    「そうだ。土成くん、大丈夫なのかな」

    私は携帯電話を取り出し、急いでかける。夕梨さんと、大可さんは、
    バイクと車をガレージに入れた後、家の周囲を調べはじめた。
    20回以上コールしてもつながらず、30回目になったら、
    一端切ろうと思ったら、つながった。
    何か、ブーンという耳障りな低い音が聞こえている。

    「カチャ… もしもし、土成くん? 大丈夫」
    「うう… ゴホゴホ」
    「もしもし? もしもし?」
    「ゴホゴホ、宇佐見…か?」
    「よかった。私、土成くん家の前に来てるの。よかったら顔見せて」
    「ゴホ、分かった。」

    すると、2階のカーテンが開き、人影らしきものが見えた。

    「そー言えば、土成くん、家から湯気みたいなものが出てるんだけど、
     ガス漏れとか、火事とか大丈夫?」
    「ゴホゴホ、よく聞こえない。とりあえず、玄関に下りるよ。
    「分かった。待ってる」 「ガチャ、ツーツー」

    私が電話し終えると、いつの間にか二人が後ろに立っていた。
    そして、不思議なことを言い出す。

    「若ちゃん、今、誰と話していたの?」
    「え、土成くんですけど、今、玄関を開けてくれるそうです」
    「宇佐見さん、2階の方を見てたのは?」
    「それも、土成くんです。顔見せてって言ったら、カーテンを開けて…」

    2人とも、一瞬張りつめた顔をしたが、すぐに表情を緩めた。

    「そっか、元気なんだ。良かったわね。で、降りてきてくれてるんだっけ?」
    「ええ、そうだと思うんですけど… あ、開いた」

    玄関の扉が開く。ギギーという音共に、湯気があふれ出た。

    「あ、土成くん」

    二人は「「え?」」とか声をあげているけど、気にせず私は近づいて行く。
    土成くんは、顔だけが覗く程度の隙間しか扉を開けていない。
    恥ずかしいのかな?

    「ゴホゴホ、わざわざ、見舞いに来てくれたんだ。ゴホ」
    「ごめんね。突然、押しかけちゃって。」
    「ゴホ、いいよ。折角だから、上がって。ガハ」
    「お邪魔します。」

    言われるままに、上がる。中に入ると、湯気は消えてなくなった。
    外が何か騒がしい気もするけど、土成くんが滑るように、奥に消えていくので、
    見失わないように慌ててついて行く。一方、外では…

    「待って、若ちゃん」 「開けてくれ。宇佐見さん」

    眼鏡の2人は、突然のスチーム(蒸気)にレンズを曇らせてしまい、
    一瞬のホワイトアウトの間に、若葉を見失ったのだ。

    「まずいことになった」
    「今も、若ちゃん、ブツブツ言ってましたけど、相手の声は聞こえなかったな」
    「とりあえず、我々も中に入ろう」

    しかし、玄関扉はピクリとも動かなかった。

    「仕方ない。どこか開いているところを探そう。」
    「もし開いてなかった時は、如弥さん、人払いをお願いします。」

    案の定、1階の窓ガラスは、どれもビクともしなかった。

    「残るは2階か。如弥さん、頼みます」
    「了解。元々、僕はサポートだからね。」
    アぁぁぁぁv
    そう言うと、懐から取り出した香炉を地面の上に置き、1本の線香を立て灯し、
    金属製の鉢がねとバチを持つと、何やら呪文のようなものを唱えながら、
    1分ほどの詠唱が終わる度に、コーンと高い音を鳴らす。

    一方、夕梨は、器用に雨どいを伝い、2階に登る。

    「夕梨くん、線香の燃え尽きる時間は約40分だ。それまでに、何とか頼むよ。」

    「了解です」という代わりに、頭の上で両腕で丸を作る夕梨。
    しかし、よく見れば、手首のスナップを利かせて、ハート型に見えなくもなかった。

    その頃、家の中の若葉は、首里?に連れられて台所に来ていた。

    「ふーん、これが土成くんのお家か」
    「ゴホ、わざわざ来てくれて、ありがとう」
    「ううん、勝手におしかけちゃっただけだから」
     元気そうな顔も見れたし、来たばかりだけど帰るね。
     土成くんも寝た方がいいよ」

    「ゴホ、さっきまで寝てたから、いいよ。
     それよりも話相手になってくれた方が嬉しい。」
    「そっか、じゃ、いさせてもらおうかな。
     そうだ。土成くん、おなか減ってるでしょ。台所借りてもいい?」
    「ゴホ、いいよ。そんなことまでして貰わなくても」
    「いろいろ材料買って来たんだから、助けると思って…ね」
    「ゴホ。仕方ないな。ご馳走になるよ」

    また、外に視線を移すと、

    「ダメだ。どこも鍵がかかっている。かくなる上は…」

    と黒い革の手袋をはめ、窓ガラスにガムテープを張り、
    コンパス式のガラス切りを取り出す。中心部分には吸盤がついている。

    「一度やってみたかったのよね。♪街にきらめく、パッションフルーツ♪」

    鼻歌交じりで1番を歌いきる間に、直径10cm程度の円が窓ガラスに開くと、
    またもや蒸気が噴き出す。

    「あいたたた、油断した…」

    眼鏡を拭くために一端、外したものの、そのまま、襟元から胸の谷間に差し込む。

    「どうせ、中は蒸気で満たされていることだしね。」

    ぽっかりと開いた丸い穴から手を差し込み、鍵を開けカラカラと窓を開ける。

    「うわ、何これ? 家、痛むよ」

    外に漏れてる以上の蒸気で、1m先が見えない状態。とはいえ最も眼鏡を外した夕梨にとっては、
    視力的には同じようなものであった。

    「ま、かえって好都合かもね。」というと、コーンと金属音を発した。

    それを片耳の耳詮を外した状態で聞きとる。
    いうなれば、海底の潜水艦が発した探信音を、ソナーで探るのを
    生身で行なっているようなものである。

    「ふむふむ。寝ぼすけさんは、そこにいるのか」

    夕梨は、闇雲に不法侵入したのではない。2階で一番蒸気濃度の濃い部屋を
    首里の部屋と目星をつけて、入ってきたのだ。
    肺いっぱいに空気を吸い込み、ベッドと思わしきところに寝ている人物に叫ぶ。

    「起ーきーろー!」 パリパリパリーン

    2階中の窓ガラスが割れた。

    「あ、しまった…」

    しかし、そのおかげで風通しがよくなり、2階中に溜っていた蒸気は一気に
    外に排出された。そのため、視界はよくなり、眼鏡をかけ直した夕梨が見たものは、
    ふとんをかけられた無地の抱き枕であった。

    「そんな、さっきは確かに人の気配がしたのに」
    「夕梨くん…、やり過ぎないように」

    普段温厚な如弥も、流石に声のト-ンに若干トゲがある。

    「す、スイマセン。気をつけます。」

    どうやら、人肌並の蒸気に意識が朦朧としていたらしい。

    「パパーン! しっかりしろ、谺夕梨!」

    両頬を手の平ではたき、気合いを入れる。
    とりあえず、2階中の部屋を視覚的、聴覚ソナー的に検証するが、人の気配はない。
    まだ直、階段下から立ちこめる蒸気から1階が怪異の源だと限定して間違いないようだ。

    「そうだ。若ちゃんは?」

    携帯電話を鳴らしてみる。先ほどの何かに憑かれていたような若葉の覚醒を促すことも
    期待したのだが… 一向に出る気配はない。

    「やっぱり降りるしかないわね」

    蒸気のせいか、汗のせいなのか、巫女服が肌に張り付いて気持ち悪い。

    「ええーい、どれもこれも全部、首里とかいうアンポンタンのせいよ。ムキー」

    まだ見ぬ首里に言い知れぬ怒りをぶつけるのであった。

    階下を下りぬ前に階段上の窓を開ける。若干蒸気が晴れた気はした。
    一歩一歩踏みしめながら、またも眼鏡と左耳栓を外す。

    「コーン… ふむふむ」

    再度、携帯電話を鳴らしてみる。今度は、今朝若葉が電話をかける際に覚えた
    首里の携帯にである。発進音を聞いて覚えたので、指で押すようなことはしない。
    その発信音を口から奏でる。

    「ピポパピポ… トゥルルルルル…  トゥルルルルル…」

    出ることは期待してなかったのだが、つながった。
    しかし、留守番電話センターに切り替わっただけなので、ほっと胸をなでおろす。

    しかし、折角なので。メッセージを残すことにする。

    「今から行くから首洗って待ってなさい! ガチャン」

    階下に到達すると、玄関先が見えたので、駆け寄り、扉を開く。
    当然、蒸気が排出される。もう、ほとんど霧は晴れたので、部屋中を見渡せる。

    扉の外には如弥の姿も見える。

    「夕梨くん、後5分程でタイムアップだ。頑張って!」

    その言葉だけで、勇気100倍! 後100年は戦える気がした。

    「任せておいてください!」

    胸をドン!と叩いた際に、たわわな胸が震える。
    さてと、振り向きざまに緩んだ表情を引き締める。

    「さてと、お仕置きタイムだよ」

    時刻は18時半。すっかり、外は暗くなっていたが、部屋の中は蒸気のせいか、
    ほんのり明るかったことに気づく。

    「はいはい、そろそろお遊びの時間は終わりですよ。良い子は、おうちに帰らなきゃ」

    そう言いながら、夕梨は廊下の電気をつける。そして、奥の方を見定める。

    先ほど、階段上で携帯電話を鳴らした時、一瞬聞こえてきたのは、台所近辺からであった。

    その進行方向上にある、全ての窓ガラスを開けながら、再度コールする。
    あの着信メロディーは、確か… すると、台所から着信音と共に鼻歌が聞こえてきた。

    「…♪入り日うすれ 見渡す山の端、霞み深し…♪ へぇー、土成くん、着信、
     朧月夜にしたんだ?」
    「ブブ、ブブブー… ザザザ…」
    「私も、それに変えようかな」

    若葉の一人ごとの合間に、時折ノイジーな雑音が聞こえる。
    その、若葉は、洗い物をしており、視点の先には、湯気の塊が見える。

    「若葉ちゃん! 若葉ちゃん、しっかりしなさい」

    両肩を掴み、揺さぶり、耳元で叫んでも、何者かと話を続けている若葉に、
    夕梨は気は進まなかったが、若葉の頬を張った。

    「パシーン! 若葉ちゃん、お願い、目を覚まして!」
    「あ…れ? 夕梨さん。私…」
    「よかった。気づいたのね」
    「ああ、すいません。すっかり、お待たせしてしまって」
    「? 何を言っているの?」
    「いえ、土成くんと、話し込むのに夢中になって、お二人のことを忘れてました」
    「土成くん? いるの? ここに」
    「何を言っているんですか。そこに座っているじゃないですか」
    「… ああ、ごめんなさい。気づかなかったわ。
     そうだ、若葉ちゃん、カメラ持ってたわよね。3人で記念撮影しようか」
    「どーしたんですか? 夕梨さん」
    「いいから、いいから。3人一緒に撮りましょう。
     ほらほら、土成くんを囲んでね。ね」
    「まー、いいですけど。土成くん、ごめんね。じゃ、撮りますよ」

    そう言うと、若葉は、デジカメを前に突き出し、自分達の方に向け、シャッターを押した。

    ピカッ! 「きゃ、何? この光」
    「さてと、若葉ちゃん。うまく写ってるかな?」
    「えーと、ちょっと待ってください。あれ? 土成くんが写っていない?」
    「若葉ちゃん、土成くんは、どこにいるのかな?」
    「ええ? 此処に座って…いない。土成くん? 何処に行ったの?」
    「ふー、ちょっと空気の入れ替えをするかな?」

    窓ガラスを開け、換気扇を回す。すると、人影らしい湯気は消え去ってしまった。
    若葉は、椅子の上に、先ほど首里に食べさせていた、おじやが盛られていることに
    呆然としてしまっている。

    「どーゆーことですか?」
    「若葉ちゃんは、湯気の塊に向かって、一人ごとを言っていたということかな?」
    「でも、ええ、そんな…」
    「混乱しているのは、分かるけど、一刻も早く、本当の土成くんを見つけなきゃいけないの!
     協力してくれる?」
    「…そうですね。でも、どうすれば…」
    「そうね。まず家中の窓を開けて、湯気を外に逃がす。
     と言っても、残りはトイレとお風呂場くらいだけど」

    と言う暇もなく、若葉は走り出していた。まず、トイレを開き、窓を開け、
    次に洗面所に辿りつくと、むせ返るような蒸気で、何も見えなかった。

    「夕梨さん、此処です。熱!」

    風呂場のノブは握れないほど、熱くなっていた。

    「若葉ちゃん、冷蔵庫の中のありったけの氷持って来て」
    「はい」

    夕梨は、そこにかけられたタオルを掴み、ドアノブを握ろうとしたが、
    既に、ドア枠が変形し、開閉不能状態になっていた。

    「仕方ない。開け!」

    またも、叫ぶ。洗面所中の窓ガラスが割れた。
    如弥の呆れる顔が浮かんだが、ことは緊急を要する。
    一気に蒸気が駆け抜けた。

    「キャー」
    台所で、若葉の悲鳴が聞こえるが、夕梨も立っていられず、夢中で柱にしがみつく。

    しばらくすると視界がよくなり、風呂場の様子を把握できた。
    音? シャワーだろうか? 風呂桶は溢れるほどの湯が溢れ、中には少年が着衣のまま湯船につかっていた。
    駆け付けてきた若葉が叫ぶ。

    「土成くん! 熱!」

    身体に触った途端、手を引っ込める。
    シャワーの冷水を蒸発させるほどの高温が首里の身体から発せられていた。

    「若葉ちゃん、氷!」
    「あ、はい。」

    洗面所にあったホースをつなぎ、風呂場に大量の水と、ありったけの氷を
    注ぎ込むが、瞬く間に蒸発していく。
    それでも、若干、湯気は薄まった気はするが、それ以上好転しそうになかった。
    ガラスの修繕費に、水道代、そして、全室、湯気での侵食、土成家の被害は既に尋常ではないが、
    まだ終わったわけではない。万策つきたかと思った、その時、夕梨は若葉に提案する。

    「若葉ちゃん、王子様に目覚めのキッスを」
    「ええ、そんな。悪いですよ」
    「でも、ものは試しに、やってみれば。医療行為と思って」

    渋々、若干ソワソワしながら、唇まで後5cmのところまで近づきながら、断念。

    「熱、それとも暑? とにかく、これ以上近づくのは無理です」
    「そうよね、沸きたてのヤカンに顔を近づけるようなものだし」
    「でも、何とかしないと、土成くんが、土成くんが、ううっ…」

    「夕梨くん、これを!」

    と、如弥が何やらクーラーボックスに大量につめてやってきて、投入する。
    ドライアイスに、コンビニで売っている、かち割氷などなど。
    瞬く間に冷やされ、何とか、ぬるま湯にはなったが、予断は許さない状態だ。

    「宇佐見さん、リュックは?」
    「え? あ、台所に」
    「夕梨くん、土成くんの口を開いて」
    「はい」

    夕梨は、耐熱手袋をはめて、首里の鼻と顎を掴み、上下に無理やり口を開いた。
    そこに、こんにゃくと塩を大量に流し込む如弥。
    若葉は止めようとしたが、効果はあったのだろう。水が見る間に冷えて行く。

    「もう、いいだろう。水を止めて」
    「「はい!」」

    ヨイショと首里の身体を抱きかかえる如弥。バスタオルを床に敷く夕梨。
    その上に寝かせる。誰もが、ずぶ濡れだ。誰かも構わず、くしゃみをする。

    「二人とも、僕の車に着替えとタオルが積んであるから、それに着替えて。
     何なら、湯船につかるといい。僕たちも、その間に着替えるから。ハックション」

    十数分後、ドライヤーで髪を乾かす音が聞こえ、二人の少女は、トレーナーに
    ジャージといういでたちで、あらわれた。
    下着は、どうしたのかは、聞かないで下さいwww

    「どうですか?」
    「小康状態だけど、一度、無理やりにでも起こした方がよさそうだ。」
    「そうですね、そろそろ月も昇りますし。また、同じことを繰り返すのはしんどいし。」
    「でも、どうやって?」
    「そこは、やはり、お姫様がキスを…」
    「夕梨さん#、まじめに聞いてるんです!」
    「いやいや、結構本気なんだけど」

    「とりあえず、呼びかけしてみよう。それでもダメなら、宇佐見さんに任せるよ」
    「もう、とにかく声をかければ、いいんですね、土成くん、起きて。」

    5分ほど、3人は話しかけたが、何の変化も現れない。

    「此処は、やはり、お姫様の…」
    「やってもいいですけど、それでもダメならどうするんですか?」
    「土成氏とは連絡とれないから、最悪の場合、※OSCで
     集中治療ということになるだろうけど」

    ※オーガニック・スピリチュアル・カンパニー

    「そー言えば、ここ、仏間なんですね」
    「ああ、此処くらいしか寝かせられる部屋がなかったものだから」

    ふと仏壇の写真が目に入る。

    「あれは? 誰だろう。綺麗な人…」
    「きっと、土成くんのお母さんじゃないんですかね」
    「そうか! 助けてもらおう。」
    「えっ。」
    「そうだね。夕梨くん、任せるよ。宇佐見さんも一緒に呼びかけて」

    夕梨は、仏壇の写真を手に取り、しばらく見つめて、ブツブツ言っていたが、
    ふと顔をあげて、普段と違う声色で喋り出した。

    「じゃー、若葉ちゃん、行くわよ」
    「え? あ、はい。土成くん、起きて」
    「首里、起きなさい。学校に津国するわよ。首里、しゅーくん」

    10分くらい呼び続け、ダメかと思った時、首里の左目から涙が流れ落ちた。
    そして、うっすらと目が開く。

    「ゴホ、か、かぁ…さ、ん?」
    「土成くん、よかったー」

    思わず、若葉が泣きながら抱きつく。

    「ガフ、な、何で、宇佐見が… ゴフ」
    「ふふ、土成くん、声かさかさだね。何か飲む?」

    朦朧としている首里はキョトンとしながら、
    居るはずのない亡き母を探す。すると、咳ばらいが聞こえて…

    「オホン、悪かったわね。あんたのお母さんの声真似して」
    「ゴホ え? 誰? 何で、その声を」
    「そうだ、夕梨さん、土成くんのお母さんに会ったことあるんですか?」
    「さー、写真見つめてたら、自然に、あの声が出た。多分、降りて来てくれたんじゃないかな?
     もう一度やれって言われても、恐らく無理ね。」
    「ゴホ そっか、よく分からないけど、ガハ、ありがとうございました。」

    「さてと、後片付けをしますか」
    「それだけど、夕梨くん。この家に、このまま彼を寝かしておくのは、まずい気がするよ」
    「? どうしてですか?」
    「2階や風呂場の惨状…的にだよ。後、今夜再度、同じことが起きないとも限らないし」
    「ゴホ、2階や風呂がどうかしたんですか?」
    「あははは… そーいえば、何で、土成くんはお風呂場にいたの?」
    「え? 俺、風呂場にいたの? どーして?」

    「じゃー、逆に聞くわ。いつから、どこまで覚えているの? 土成首里くん」
    「そー言えば、あなた達は一体?」
    「そーいった疑問は、後で全部答えて上げるから、ね」
    「はあ。じゃ、俺の方から、夕べ、宇佐見さんとのメールし終えてから、急に身体が熱くなって…
     そこから、さっきまで覚えてない。ただ、ずぅっと、宇佐見さんと話をしてた気はする」
    「じゃ、じゃー、今朝電話したことも、さっき、台所でおじや食べたことも覚えてないの?」

    「そー言われてみれば、さっき、卵と豆腐の入ったおじや、御馳走になった夢をみたような。」
    「夢じゃないよ。」
    「その割には、おなか減っているんだよな」
    「そ、それは、土成くんの座っていた椅子の上に、全部残っていたから。温め直そうか?」
    「うん、よかったらお願いするよ」

    そー言うと、宇佐見さんは、甲斐甲斐しく、トタトタと小走りに走っていた。
    そーいえば口の中が、何故か塩っぽい。何かかけらがあると思って、噛み砕くと、こんにゃくだった。
    腹の足しにはならないだろうけど、ないよりは、マシだ。咀嚼する。
    で、代わりに、眼鏡をかけた女性と男性が話しかけてきた。

    「では、今度は我々が質問するよ。自己紹介する前に、僕たちのことで分かることはないかな?」
    「いえ、初対面のはず…なんですが、そちらの女性が、ガラス切りで、俺の部屋の窓ガラスに穴を開けて
     鍵を外して、入ってきたり、ベッドの上で寝ていた俺を起こそうとしたら、
     何故か部屋中の窓ガラスが割れたり、後、風呂場の扉が熱変形してた時も、
     何か叫ぶと、壊れていたような…スイマセン。何か、そんな荒唐無稽の夢を見てしまいました。」

    とか、言ったら怒られるかと思ったら、女性は消え入りそうになるくらい小さく縮こもって
    ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません…とか呟いている。代わりに

    「まー、修理費の方は、保険とか、労災とかで、何とかするから。で、僕の方は、何か分かるかな?
    「そーですね。これまた、夢の中の話ですけど。ガレージに黒い車を止めた後、
     線香を燃やして、金の鉢みたいなのをバチで随分、長いこと叩いていたような。
     で、しばらくしてから、それを録音してたみたいで、カセットテープが今、
     それを再生していたり、後、コンビニやケーキ屋に車で色々買ってきていたとか」
    「で、土成くんは、それを夢だと思っているんだね」
    「夢…じゃないんですか」

    「ふむ、まず自己紹介しようか。僕は、大可如弥。君のお父さんの同僚だ。
    「はあ、父さんのお知り合いでしたか。」
    「で、あっちの彼女は、宇佐見さんから聞かされてないかな。
     谺神社の神主のお孫さんで、夕梨くんだ」
    「ああ、噂の眼鏡の美人巫女さんですか。ども」

    そうこうしているうちに、宇佐見さんが、帰って来た。

    「土成くん、おまたせ。温め直したから、少しはマシになっていると思うけど」
    「ありがとう」

    と言って、起き上がろうとしても、指先一つ動かせない。

    「あれ? 全く身体が動かないや」
    「まー、そうでしょうね。仕方ない。今日だけよ」

    そう言うと、夕梨と呼ばれた女性が、上半身を起こし、後ろから抱きかかえてくれた。
    背中に何やらふくよかな塊が2つ、当たっているが気にしないことにした。

    「ふーふー。じゃ、はい、あーん。」

    宇佐見さんが、蓮華におじやを乗せて、息で冷ましてから、俺の口元に運んでくれる。
    何だろう。このヘブン状態は… でも、さっきの夢が現実だとしたら、
    家の惨状は、父さんに怒られるだけでは済みそうにないだけに、意気消沈とするのであった。

    「ふふ、うらやましい光景だね。まー、それは、ともかく、土成くんに起こった昨夜から
     今夜までの現象を僕なりの仮説でよければ、説明しよう」
    「はふはふ、はひ、お願いしまふ。」

    「まず、一昨日、土成くんは、転落しようとする宇佐見さんを助けて、
     代わりに3m下の崖下に落ちる途中に、庚申塔に頭をぶつけたんだったよね」
    「はふはふ、はひ」
    「そして、それを助けようとした宇佐見さんが、君の後を追って、降ってきたもんだから、
     土成くんはかわしきれず、結果鼻血を出した」
    「ごめんなさい」
    「宇佐見は、わりゅくにゃいよ、はふはふ」

    「そうそう、宇佐見さん、これは君を責めてるわけではない。
     ただ事実確認をしているだけだから。とにかく、土成くんの血が地面に落ちてしまった。
     それが起動キーになってしまったらしい。」
    「庚申塔のですか?」
    「いや、あの庚申塔は、高速道路の建設に伴い、あそこに最近、設置されただけ。
     問題は、あそこの墓土にあった。」
    「墓土? あそこ、墓地だったんですか?」

    「村八分って言う言葉は知っている?」
    「はい。村ぐるみの仲間外れですよね。」
    「そう、でも、残りのニ分は許された。それは、自分たちも害が及ぶから。」
    「えーと、火事とお葬式でしたっけ。」
    「その通り、しかし、それすらも許されなかった罪人たちが、あそこに埋められていたそうだ」
    「寺社に埋葬されないほどの罪って何ですか?」
    「庚申の日に強盗、殺人、強姦…おっと、女性2人の前で話す単語じゃなかった。
     とにかく、非道の限りをつくした人々が埋葬されていたらしい。」
    「その霊が、俺に乗り移った…っていうんですか? でも、その割には」

    「そう、僕たちも、最初は、そう思ったんだけど、よく考えたら、明治以降、
     僕たちの一族が、清めてたから、土地そのものは浄化されていたんだ。
     ただ、大量の魄が、そこに残されている以外」
    「ハク? って、何ですか? ぷは、宇佐見さん、ありがとう。御馳走様」
    「じゃ、私が洗い物してくるわよ。土成くん、寝かすわよ」
    「あ、スイマセン。夕梨さん」
    「あ、夕梨くん。喉がかわいたので、お茶を淹れてくれると助かる」
    「あ、じゃ、私手伝います。」

    「えーと、何処まで話したっけ。そう魄の説明だったね。
     魄というのは、魂魄の魄。由来は、髪の毛が残った白骨死体という意味らしい。
     しかし、此処での意味は、簡単にいえば、魂が精神を動かすエネルギーであるなら、
     魄は肉体を動かすエネルギーといことだ」
    「つまり、その魄が大量に、俺の身体の中に吸収されてしまったということですか。」
    「そう、ただ今回は時期が悪かった。今日は庚申、かつ満月。
     庚申は、霊が肉体から離れやすい日だし、
     満月は、地球上の海水にすら影響を及ぼす重力0(ゼロ)の日。
     とにかく、それらが重なって、土成くんの身体と魂は不安定になってしまった。
     いうなれば、三輪車にF1並みの出力を与えてしまったような状態だからね。」
    「だから、身体が耐えきれなくて、発熱したということですか」

    「それに土成くんにとって勝手知ったる我が家だろうし、霊は水辺に縁が深いからね。
     また幽体離脱というものは、寝る前に見た室内の3次元記憶を、脳が客観視した結果、
     起こるとも言われているからね。特に、土成くんは絵を描くから、
     それが第三者に知覚できるほど精密に再現されたということかな」

    「はいはいはいはい、質問です。」

    夕梨さんと一緒にお茶を運んできた宇佐見が、部屋に飛び込んでくるなり問う。

    「何かな? 宇佐見さん」
    「あの、大可さん、私のカメラに何かしましたか?」
    「ああ、レンズに梵字でいうところのカーン(光の意味?)と指でなぞっただけだよ。
     手ぶくろをはめてやったから、指紋はついてないとは思うけど」
    「ええ、それだけで、あんな威力が?」
    「特に何もしてないわよ。しいて言うなら、若葉ちゃんは、大可さんが何か凄いことをしそうという
     思い込みが暗示を解くきっかけになっていたのかもね。」
    「そんな… ゴソゴソ。あ、今見たら、土成くん写ってる。」
    「どれどれ、見せて」

    デジカメには、宇佐見と夕梨さんに挟まれた自分の影らしきものが写っていた。
    ただ、白く、背景が透けて見えるため、主張の激しい心霊写真というところか。
    またもや、上半身を起こしてもらって、お茶を飲ませてもらう。

    「さて、どうするかな。土成くんは、念のため、今晩は起きといた方がいいけど、
     2人はどうする? 疲れたでしょう」

    時刻は20時を回ろうとしていた。

    「いえ、私も付き添います」
    「だったら、若葉ちゃんは、一端、家に連絡しておきなさい。」
    「土成くんには、申し訳ないことに、この家の被害状況では、今夜寝るには
     厳しい状況だから、どこかに場所を移した方がいいとは思うけど…」
    「それでしたら、うちの集会場使ってください。お爺ちゃん達も、21時には
     解散するでしょうし」
    「そうか、助かるよ。」

    そんな訳で、指先程度なら動かせるようになったものの、足腰が立たない俺は、
    情けなくも女姓陣2人に、両脇から支えられて、車に乗せられた。
    宇佐見の洗い立ての髪から薫るシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。

    ガレージでは、やや不気味に先ほどの詠唱テープと金の音が鳴り続けている。
    雨はやんでいた。まー、多量の水を蒸発させていた俺の熱が下がっているのだから、
    当然ではあるが。さてはて、散々な一日だが、何をするにも他人様の手をわずらわせるのは、
    申し訳なく思いながらも、ちょっとした王様気分ではあり、楽しくもある。

    そして、まだ夜明けまで、8時間近くある。これから何が待ち受けているのか、
    恐ろしくもあり、楽しくもある。             (続く)

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