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    ラギヨイ・アチントヤ(4) ~九日旭
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/164/
     からの続き


    ラギヨイ・アチントヤ(5) ~サイレント・ヴォイス


    今日は朝からついてない。正確には、今週と言い直してもいい。
    日曜に行なった合唱コンサートで、何故か気に入られてしまった私は
    あの男、九日旭につきまとわれ続けているのだ。


    旭


    九日旭…インドからの留学生で、マハラジャの御曹司。
    かつ学生でありながら、幾つかのホテルや会社経営もしているらしい。
    理系の院生であるため、単位取得に必要な学科以外は、
    私の出席する講義に、ことごとく顔を見せるようになった。
    一応、常識はあるみたいで、授業中に声をかけられることはなかったが、
    終了後に必ず愛の言葉とやらを囁いてくる。


    「君ハ僕ノ”ボーディ・サットヴァ(菩薩)”デース」とか。
    最初は、冗談だと思って、軽く受け流していたが、
    本気と知って、目まいがした。


    祖父の神社に居候している身なので、この身体を神に捧げたとは言わないけど、
    せめて好きな相手は自分で選びたい。
    そして、それは残念なことに彼ではなかった。
    タイプや国籍がどうとかいうことではない。
    私、谺夕梨には想い人がいるのだから。
    決して叶わぬ相手ではあると分かっていても。


    なので、今日、首里を呼び出したのは、
    私が誰かと話している時は、決して話しかけないという
    彼の常識、というか紳士的な習性を期待してのことだったのだが。
    今日の授業は、私の模擬授業当番であったことが災いした。
    部外者である彼がこともあろうに質問してきたのである。
    しかも、結構的確に。教授も、その質疑応答そのものに興味を抱いたらしく、
    誰も助け船を出してもらえず、今に至っているわけである。


    とはいえ、私を口説くために、専門外しかも日本の古典に精通しているのは
    意外であった。決して一夜漬けのレベルとは思えなかった。
    というわけで、若干、興味を抱いてしまったのが運のつきだった。
    好奇心、身を滅ぼす。現在、伏魔殿の真っただ中にあった。


    クエスト・バーラト・ホテル33階の最上階、展望レストランの窓際の席。
    時刻は18時を回り、夕陽はまだ沈みそうにないが、朱の空と青雲の境界が
    徐々に混ざり合って行く様は悔しいが美しい。
    若葉ちゃんならずとも、大自然のスペクタクルに時を忘れてしまう。
    いけない、いけない、楽しんでる場合じゃない。


    夕梨「何で、私なんです?」

    QB「雷撃ノ恋ッテ、分カリマースカ?」


    フランスでは、一目惚れのことを、“雷の一撃”と呼んだりするらしい。
    要するに見てくれの評価なのか。とはいえ、当の私は、眼鏡をかけた
    凡庸な容姿である。ますます分からない。


    夕梨「九日さんは、将来はやはり御国に帰られるんですか?」

    QB「イエ、アナタガ望ムナラ、僕ハ、コノ国ニ骨ヲ埋メル覚悟デース。」

    夕梨「はー、そうですか」


    うわー、どうしよう。彼を嫌う理由が見つからない。
    私が、彼を拒絶するのは、あの人への想いを断ち切れない私の我儘なのだろうか。
    そんな私の心を見透かしたかのように。


    QB「彼、大可如弥(おおか・きさや)ヘノ義理立テデースカ?」


    私は自分の顔ばかりか全身が赤く染まっていくのを感じた。
    それは羞恥心なのか、怒りなのか、はたまた、この男がどこまで私のことを
    調べ上げているのか、ということに対する恐怖なのか。
    とはいえ、一通り激昂した後、私は落ち着くことにした。
    心を揺らしては、勝ち目がない。決めた。もう、心を許さない。


    QB「ホー、流石、大可堂ニ出入リシテイルダケハ、有リマースネ」

    夕梨「あなた、一体何者なんですか?」

    QB「中国ノ殷(商)時代ニハ、10個ノ太陽ガ登ッテイマシタ」

    夕梨「はー? 話をそらさないで# 射日神話がどうかしたの?」


    古代、天空に10個の太陽が登り、日照り・干ばつが続いたため、9個の太陽を
    射落とし、現在の1個の太陽になったという話。ん? 9個の太陽?!

    (部族によっては、12個から11個、99から98射落とされた話があったり、
    残った1個の太陽を呼び戻すための天の岩戸のような招日神話もある)


    QB「オー、夕梨サン、話ガ早イ。
       僕ハ、十人兄弟ノ末ッ子デ後継者争イカラ漏レタ9個ノ太陽。
       ツマリ九日ノ一ツ。気楽ナ者デース。」

    夕梨「はー、そうなんですか。」

    QB「マー、ソレハソレトシテ、夕梨サン、アナタノ”力”ヲ見セテ下サイ。」

    夕梨「力? 私、女ですし、特に取り柄もありませんが」

    QB「オー、謙遜ハ行ケマセン。アナタ、普段ノ生活ハ勿論、
       コノ間ノ”合唱コンサート”デモ、低音”アルト”デシタネ。
       アナタノ本気、高音”ソプラノ”ガ聞キタイデース」

    ふーん。知ってて、それを要求するのは、私の声に対する防御法があるのか、
    それとも、知らないのか。ま、ご馳走にもなったことだし、
    せめてもの御礼ということで、一言くらいならいいかな。
    彼は、私への気遣いなのか、人払いをした。まー、こちらとしても助かる。


    夕梨「少し準備しますね。」

    QB「オー、夕梨サン。
       怒ッタ顔モ素敵デ-スガ、ヤハリ笑ッタ顔ノ方ガ、チャーミングデース」


    あははは。私はニッコリ笑顔を浮かべながら、
    ハンドバックから一見包帯状に見えるものを2本取り出す。
    「オー、ソレハ何デースカ?」という質問は無視。
    1本5mあり。それを私達の周りに半円ずつ、
    つまり半径約1.5mの1つの円状になるように周囲の床に置く。
    そして、彼の後ろに、フロア中から集めた、クッションを敷きつめる。
    これから、かけるであろう迷惑へのせめてのお詫びである。


    夕梨「(ニコリ)では、はじめますね」

    QB「大変、楽シミデース」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    その頃、エレベーターでは、逃げ場がないだろうと、
    またもや従業員通路から階段で33階まで漸く辿り着いた俺達は
    異変に気づく。ガラスが小刻みに振動している。


    ra3


    首里「おい、これって、もしかして」

    若葉「うん、間違いない。夕梨さん、歌っちゃったんだね」


    カメラのファインダー越しに展望レストランの入口を見ていた宇佐見は
    カメラをポシェットに仕舞い、耳栓を出して装着していた。
    俺もそれに倣い、両耳孔に指を突っ込み、衝撃に備えた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    一方、私は、まずは発声練習から始める。ハーハーハーハーハー♪
    一音上げて行くたびに周囲の”羽衣”が反応し、徐々に浮き始める。
    羽衣とは、先ほど周囲に置いた虹色のレース(ガーゼ?)のことである。
    1巻き5mありながら、重さは21gあるかないかだ。


    21gとは、20世紀初頭アメリカの医師ダンカン・マクドゥーガルが行った、
    魂の重量を計測しようとした実験の最初の被験者の結果である。
    生前と死後の体重差を6人の被験者と15匹の犬に対して行われ、
    1907年に発表されているが、その幾つかには実験過程で失敗してたり、
    結果自体も学会では発汗や水蒸気量の変化という結論で片づけられたが、
    一般に人の魂の重量は21gであるという俗説が根づいた発端である。


    それはさておき、この”羽衣”。あの人、如也さんにもらったものだ。
    本当は、彼、九日旭になんかに見せたくはないが、
    此処は33階。地上から高さ130mで、しかも壁面は愚か、床まで全て強化ガラス張り。
    手加減なしで歌うには、仕方ない配慮だ。
    万が一、ガラスが割れれば、気圧差で吸い出され、ノー・ロープ・バンジーをやらせかねない。


    さて、床から羽衣は、高さ140cm、丁度157cmの身長の私の口元辺りまで浮いた。
    彼、九日旭はブラボーとか言って拍手をし、余裕である。
    彼の身長は2m近くあるが、座っているので、立っている私は、何とか見下ろせる
    ポジションにいた。さて、何と言ってあげようか。でも、その前に。


    夕梨「九日さん、今日はご馳走していただき、ありがとうございました。」

    QB「オー、夕梨サン、ドーイタシマシテ。デモ、夜ハコレカラデスヨ。
       間モナク日没デース。大人ノ時間デース。部屋モ用意シテ…」

    夕梨「それでは。これでお暇します。んー、そうだな。」


    夕陽の最後の光が山頂から漏れて来る。頃あいかな。
    彼がポケットからテーブル上に出した、ルーム・キーが私の怒りを起爆させた。


    夕梨『『『♪私、髭が生えている
       男性、苦手なんです♪』』』



    夕梨・武装形態


    彼の頭骸を打ち抜きかねない超高音。無論、不可聴域のサイレント・ヴォイス。
    それでも九日旭は「NO!」と叫びながら立ちあがったが、そのまま後ろに倒れた。
    鼓膜やっちゃったかな? 耳から血が流れていた。脳が揺れているのに無茶をするから。
    何とかクッションを敷き詰めていたので、後頭部を強打することはなかったようだが。
    誰かに介抱を頼もうと、インターホーンを鳴らしてみたが、応答はない。
    まー、犯人は私なわけだし。事態がややこしくなるから、丁度いいか。帰ろ。

    とか思っていたら、扉が開いた。思わず身構えたが、見慣れた顔でホッとする。


    首里「(バタン!) 夕梨、大丈夫か」

    夕梨「ちょっと、首里。何で、あんたがいるの?」

    若葉「夕梨さん、どうもです。わー、綺麗!(カシャ)」

    夕梨「はー、そっか。ミイラ取りがミイラになったのか」

    首里「うわー、派手にやったな。コイツ、何やらかしたの?」


    無視。私は羽衣を回収し、ハンドバックに入れた。
    若葉ちゃんは夕暮れの写真を取り続けている。
    気持は分からないでもないが、長居は禁物だ。


    夕梨「あー、おなか減っちゃったな。何か食べて行こうか?」

    首里「今、食べたばかりじゃないのか? フルコース?」

    若葉「(カシャ)いいですね。私、ラーメン食べたい。(パシャ)」

    夕梨「そーね。ここら辺だと、美味しい屋台があるんだけど」

    首里「まー、元々それが目的だったんだし、いいか」

    夕梨「じゃ、聞こえてないでしょうけど、九日さんお大事に。(バタン)」


    扉が閉じ、3人が正面からエレベーターで1階に着く15分後、
    漸く九日旭は眼を覚ました。そして、携帯電話を取り出し、首尾を聞く。


    旭ピプーs


    ?? 「スイマセン。QB様、アナログ録音ハ出来マシタガ、
        カメラハ、発声ノ瞬間二破壊サレ、ソレマデシカ録画デキテイマセン」

    QB 「ソウカ、アリガトウ。ピプー、何、彼女ノ能力ハ僕ガ身ヲ持ッテ体験シタカラネ。
        ユウリ・コダマ。何トシテモ、僕ノ計画ニ欲シイ逸材タヨ。」

    ピプー「ソンナ、我々デハ、オ役二立てマセンカ?
        我ラ”※ヴァーストゥ・シャーストラ”ノ四非ガ四民ヲカケテ、彼女ヲ捉エテミセマス。」

    QB 「ソウカイ? ジャー、頼ムヨ」


    ※ヴァーストゥ・シャーストラ…中国の風水より歴史は長く、
     中国の風水の起源ではないかとの見方もあるがはっきりとはしていない。


    そんなこととは知らない3人は?


    夕梨「私達、自転車に乗るから、首里、あんた、走りね。」

    首里「へーへー、そうなるだろうと思ったよ。」

    若葉「ごめんね、土成くん、それはともかく、レッツゴー。」


    若葉は俺の自転車を漕ぎ出す。俺は、律儀に走り出す。
    時刻は19時。すっかり陽もくれ、胃袋が空腹を訴える。
    まー、空腹は最高の調味料だし、今夜のラーメンは旨そうだ。


    ラギヨイ・アチントヤ(6) 土成首里(1)に続く
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/172/

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