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    ラギヨイ・アチントヤ(5) ~サイレント・ヴォイス 
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/167/
    からの続き


    ラギヨイ・アチントヤ(6) ~土成首里(1) 


    2003年4月15日(火)


     話は4月に遡る。高校2年生になりクラス替えにより、
    見知った顔は減り、新しくクラスメートになった一人に
    宇佐見若葉はいた。人懐こい性格で、彼女の周りには
    笑いは絶えなかったが、俺には関係ないこと…と
    4時間目までは思っていた。昼休み、俺は学食で惣菜パンと
    コーヒーを買い、教室に戻ると女生徒達が机を並び替えて
    弁当を食べていたが、宇佐見の姿はなかった。


    ra3


     聞くつもりはなかったが、彼女と1年の頃から同じクラスだった
    何人かは、「あの娘、あれさえなければ、いい娘なんだけどね」
    と諦め気味に溜息と共に、愚痴をこぼしていた。


     まー、俺には関係ない。パンを口に押し込み、コーヒーで流し込んで、
    席を立つ。次の授業は移動教室だ。教科書とノート2冊と筆箱2つを持って
    教室を出る。「おい、土成。まだ授業まで30分以上あるぜ」と
    新しく級友になった生徒が、バレーボールに誘ってくれたが、
    「今日は、天気いいからな」と曖昧な答えで断る。
    後ろから、事情通の友人が、俺の代わりに説明をしてくれていた。
    他人にどう思われようがいいが、少し気になる事を言っていた。
    「アイツも宇佐見と同類か」と。


     屋上に登る。何人かの先客がいることを覚悟はしていたが、
    風が強いせいか、思ったより冷たいために女生徒が1人いるだけだった。
    とはいえ、俺の目当ての方向とは逆方向を
    ふらふらとダンスでも踊っているかのように歩いているだけなので、
    気にもせず、自分の目的を果たすことにする。


     ノートと筆箱を開く。と言っても、勿論授業用のものではない。
    取り出したのは、横線なしの真っ白な自由帳と色鉛筆。
    先週の始業式から1週間。新学年になったこともあり、
    予習・復習のペ-スを掴むのに少し時間はかかったが、
    漸く休み時間にも余裕が持てるようになった。
    そのため、散ってしまわないか心配だった校庭の桜は、
    まだ何とか待っていてくれたようだ。
     だが恐らくは今日にも全て散ってしまい、
    葉桜になってしまうだろう。
    雲が凄い勢いで流れて行く。まー、空には今のところ用はない。
    俺は、柵を机代わりにして、おもむろに描きだした。


     10分後、無我夢中になって描き続けて、何とか
    それらしく描けてきた時、後ろに気配を感じた。
    まー、何をしているかは見れば分かるだろうし、
    経験上分かれば、興味を失ってくれるだろうと願い、
    俺は後10分で描きあげてしまいたかったので、
    気にしないことにした。


     しかし、後ろから聞こえてくる、「へぇー」とか
    「ほー」とか「あー、あそこか、なるほど」の声に
    聞き覚えがあったので、思わず振り向いてしまった。
    それまで、右手と眼球以外、岩のように固まっていた
    俺が急に動いたので、驚かしてしまったらしい。


    若葉「わ、びっくりした。土成くんだったのか」

    首里「宇佐見さんは、何してるの?」

    若葉「あー、私は、とりあえず、可愛い子たちを
       いっぱい撮れたから、満足して、今からお弁当」

    首里「ふーん。可愛い子?」

    若葉「あ、見る? この子たち。」


    と、デジカメを開いてムービーを見せられた。
    そこには流れる雲が延々映されていた。
    まー、聞くまでもないことだが一応聞いてみる。


    首里「宇佐見さんは、雲、好きなの?」

    若葉「うん。土成くんは嫌いなの?」

    首里「いや。どうして、そう思ったの?」

    若葉「だって、描いてないし」

    首里「ああ、だって今日の雲は早いし、
       最後に描こうかなと思って」

    若葉「そっか、じゃ、出来たら見せてね。
       さて、お弁当。お弁当。
       あ、土成くんは食べないの?」

    首里「俺は、もう食べた」

    若葉「そっか、あ、此処で食べながら見てていい?」

    首里「いいけど、校庭描いてるだけだぜ?」

    若葉「いいの。あー、あー、私もそれくらい描けたらなー。
       土成くんは、美術部?(パクパク)」

    首里「いいや。趣味。宇佐見さんこそ、写真部?」

    若葉「へへへ、私も趣味です。(ムシャムシャ)」

    首里「ふーん、そうか」


    それで、一旦会話は途切れ、宇佐見は座って
    真剣に食べ始めた。それだけで足りるのか?
    一口サイズの手作りのお弁当。
    おっと、いけねー。予鈴まで後10分。理科実験室までの
    移動時間を考えると5分がタイムリミットか?
    俺は、ラストスパートをかけた。


    宇佐見も食べ終わったらしい。また、後ろから覗きこんでる。
    俺も後は、空だけなのだが、先ほど描くと言った手前、
    どれを描くか迷っていた。すると、突風が吹いて、
    大きな固まりから一つだけ離れたので、すかさず、
    それを描く。宇佐見も同じだったようで、パシャリという
    シャッター音とフラッシュが光った。


    若葉「ねー、土成くん。描けた?」

    首里「あー、見る?」

    若葉「へー、凄いね。青だけ塗って影つけたんだね」

    首里「時間なかったからな。後は、家、帰って仕上げる」

    若葉「えー、これで完成じゃないんだ。じゃー、明日、また見せてね」

    首里「了解。さてと、理科室に行くか」

    若葉「へっ? 次、教室で授業じゃなかったっけ?」

    首里「いや、4限終わった後に先生が、今日は実験するって伝えに来たぞ」

    若葉「げっ! 私、その前に教室を飛び出して聞いてなかった」

    首里「まだ、3分あるから、急いで取って来いよ」

    若葉「うん、そうする」


    と言ったものの、まだ蓋をしてなかった弁当箱をしめようとするが、
    冷風にさらされ続けたせいか手がかじ噛んでなかなか閉まらない。
    そのお弁当箱の中には一口サイズのお握りが1つだけ残っていた。


    首里「なー、片付けしておいてやるから、そのお握りくれない?」

    若葉「へっ? いいの? お願い。恩に着ます」


    そう言うや否や、宇佐見は「遅れるー」と叫びながら弾丸のように
    走って行った。思ったより、俊足である。
    さてと、ご相伴に預かるべく、ヒョイとお握りを掴み、
    口に頬張りつつ、弁当箱の蓋をしめ、巾着袋に入れる。
    海苔にまかれたご飯の中身は種を抜いた梅肉であった。
    ご飯粒もふんわりと握られ、少し物足りない感じもしたが…。


    おっといけない。物思いににふけっている場合ではない。
    それでは、俺も行きますか。…と思ったが、この如何にも
    女の子然としたウサギ柄の袋を持って、理科室に入っては、
    何事かと思われるし、返すタイミングも逸してしまう。
    仕方ない。廊下で待とう。


    始業1分前、教室に入る級友をぎこちなくやり過ごす。
    残り30秒。ドドドと徐々に接近してくる足音。
    ちょっと待て、それ止まれるのか? 
    という心配は杞憂だったようだ。
    俺の5m手前で、ギュギュギュという急ブレーキ音を立てて
    俺の1m手前で止まった。肩で息を切らしている宇佐見が
    顔をあげたので、弁当箱を突き出す。


    首里「ほい、弁当箱。お握り美味しかったぜ」

    若葉「はー、はー、はー、はー、ありがとう。
       先生まだ来てないよね。」

    首里「お、姿が見えた。急いで教室に入ろう」

    若葉「はー、はー、そだね。お弁当箱ありがとう」


    それから、俺達は、一緒に理科室に入ったものの、
    それぞれ、所定のグループに分かれ、普通に授業を
    受けている間に、昼休みのことは忘れてしまっていた。


    思い出したのは、6限が終わり、清掃をし、HRが終わった後、
    帰宅部の俺は、まっすぐ下駄箱に向かいかけた時だった。
    ポンと肩を叩かれる。後ろを向くと、指先がほっぺたに突きささった。
    今時、こーゆーことをするヤツがいるかと怒りたくもなったが、
    相手が相手なので、グッと我慢する。


    若葉「や。昼休みぶり。土成くん、これからどうするの?」

    首里「別に。自転車(チャリ)に乗って帰るだけだよ。」

    若葉「そっか、帰って、あの絵仕上げなきゃいけないもんね」

    首里「宇佐見さんは、どうするの?」

    若葉「私は、これから夕焼けを撮るの。
       ね? もし、よかったら一緒に行かない?」

    首里「屋上に登るのか? けど、夕暮れまで待っていたら施錠されないか?」

    若葉「あ、違う違う。とっておきの場所があるの」

    首里「うーん、興味はあるけど、今日は用事があるんで、
       出来れば明日案内してくれると嬉しいかな?」

    若葉「そっか、ごめんね。いきなりだもんね。
       それじゃ明日、絵見せてね。じゃーね」


    そう言うと、宇佐見は、元気に駆けて行った。
    振り返りながら「土成くん、巫女さんに興味ある?」
    という謎の言葉を残して。巫女さん? 神社?

    少々残念に思いながら、俺は靴を履き、自転車置き場に向かう。
    用事があるというのは嘘ではない。共働きの両親が珍しく
    早く帰宅するというので、久しぶりに進級祝いがてらに
    家族3人で外食しようということになっていたのだ。
    それは、明日から、また出張やらでバラバラになってしまうので
    1ヶ月に1回の儀式的なものでもある。家族サービスであり、
    義務でもあるので、それまでは日常の一部であり、
    当たり前なことであったはずだが、今日は煩わしく思えた。
    まー、明日絵を見せる約束も出来たことだし、
    両親の帰宅するまでに、せいぜいがんばる事にしますか。


    ラギヨイ・アチントヤ(7) ~谺神社 に続く。
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/174/

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