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    ラギヨイ・アチントヤ(6) ~土成首里(1) からの続き。
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/172/



    ラギヨイ・アチントヤ(7) ~谺神社


     いきなり過ぎたかな。少し馴れ馴れし過ぎたのかもしれない。
    土成くんはどうか知らないけど、私は1年の時から
    土成くんのことを知っていた。いや、名前も学年も知らなかったけど、
    私が雲を撮るために上を向いていると、その下では、何か
    描いている男の子がいて、ずーっと気になってはいたのだ。
     そして、今年同じクラスになって話しかける機会を伺っていたのだ。


    まー、少なくとも今年1年は同じクラスなんだし、何より、
    少なくとも、明日絵を見せてくれる約束は取り付けれた…のかな?
    昼休みのことを思い返してみると、私、かなり恥ずかしいヤツと思われてないかな?
    うーん、考えたトコで終わってしまったことだ。明日は明日の風が吹く。
    ケンチャナヨ・無問題(モウマンタイ)・なんくるないさ・ケセラセラ。


    若葉「なるようになる! よし、反省終わり。」


    私の家は、高校から徒歩15分。土成くんは自転車通学なのか。
    塾とか行ってるのかな? だったら、夕焼けの時間まで足止めするのは
    難しいかもしれないな。帰るや否や、私は制服を脱ぎ、私服に着替え、
    予備のフィルムの残量を確認して、再び出かける。
    と思ったら、お母さんが呼びとめる。今夜は冷え込むらしいからと懐炉をくれた。
    確かに、昼休みもそうだった。実は教科書は持っていたのだ。
    何に用事があったのかは内緒である。


    さて仕切り直して出かける。目的は、ここらでは少し小高い丘の頂にあった。
    と言っても、徒歩5分程度で登れる標高なのだが。山頂には神社があった。
    そして、一人の巫女さんが竹箒で境内を掃き掃除していた。


    ra3


    若葉「あ、夕梨さん。」

    夕梨「あ、えーと、雲子ちゃん」

    若葉「あはは、若葉です。確かに雲は好きですけど。」

    夕梨「そうだ、若葉ちゃんね。えーと、若葉、若葉、若葉×10…
       何だか、いつになくご機嫌ね。何か、いいことあった?」

    若葉「えーと、いいこと半分、悪いこと半分ってところです。
       まー、私が欲張り過ぎたのかも」

    夕梨「ふーん。ズバリ、男の子のことかな?」

    若葉「ふえっ? どうして、それを??」

    夕梨「ありゃ? てっきり、違いますよ。いい子(雲)撮れたんですよと
       写真を見せてくれると思ったのに。若葉ちゃんも隅におけないわね。
       ね、写真ないの?」

    若葉「ありませんよ。あ! もしかすると、映ってるかな?」

    夕梨「どれどれ?」


    基本的に人物は撮らない私なのだが、つい背中越しに写真撮影してしまったのだ。
    偶然土成くんも同じ雲を描いていて嬉しかったのだが。


    夕梨「何だ、後ろ姿か。ところで、この子(首里)、何してるの?」

    若葉「あ、土成くんは、この子(雲)を描いてるんです。」

    夕梨「ふーん。じゃ、お仲間なんだ? いいなー」

    若葉「あ、いえ、土成くんは風景専門なんで雲”も”描いてるみたいなんですけど」

    夕梨「じゃ、此処に連れてきなよ。此処の景色もなかなかだと思うわよ」

    若葉「はあー、そー思って誘ったんですけど、今日は用事があるとかで」

    夕梨「なるほど、それが悪いこと半分なわけか。ドンマイ。いいなー。」

    若葉「夕梨さんこそ、どうなんです?」

    夕梨「私は、元から勝ち目ないからね。けど、明後日会えるから、
       今こうして、お掃除してるの」

    若葉「あ、連絡できたんですね?」

    夕梨「ううん。連絡の取りようはないけど、明後日は庚申の日だから。」

    若葉「こうしん? あ、お掃除お手伝いましょうか?」

    夕梨「いいの、いいの。後、もう少しだし、それよりそろそろ西の空が赤くなり始めたわよ。
       撮らなくていいの? くしゅん」

    若葉「はい。女の子は冷やしちゃダメなんですよ」


    そう言って、私は懐炉を渡す。夕梨さんは「ありがとう」と言って、
    手で揉み直してから巫女服の胸元から、お腹の辺りに入れた。
    その時、垣間見えた膨らみは…。むむ、私と2歳しか違わないのにボリューミー。
    しかし、夕梨さんは「肩凝るから、こんな脂肪の塊いらない」と言う。
    そして、「若葉ちゃんが羨ましい」とまで言う。悪意のない言葉なのだろうが、
    正直、苦笑いをせざるを得ない。所詮、ブルジョワの余裕か。でも私だって。


    (一応、夕梨がCで、若葉はBという設定。)


    夕梨さんは、この谺神社の神主さんのお孫さんらしい。この3月末から、
    大学進学につき、居候がてら、授業の合い間をぬって、巫女の真似ごとをしてるのだとか。
    それまで、老神主さんだけだったので、檀家さんの中ではちょっとした
    アイドルになっていたが、まだ1ヶ月も経っておらず、
    また徒歩5分とはいえ、一息で登るには急な勾配であるため、
    意外にその存在は知られていない。


    さて、私は、お言葉に甘えて撮影を始める。
    とはいえ、今日の日没が18時30分頃なので、まだ1時間以上あるため、
    ファインダーを覗くだけだ。春分を超え、夏至までの間、日がな1分ごとに
    私のお楽しみの時間が増えて行く。
    夕梨さんもチリトリを取り出し、ゴミをまとめ始めた。
    そして、それから私に会釈をして、本殿の方に帰って行った。
    夕梨さんの相手の人は、どんな人なんだろう? 明後日くれば見れるのかな?
    まー、人の逢世より、自分の心配をすることにする。
    いつもなら、夕焼け空しか見ないけど、今日に限って、
    夕日に染まる景色も何枚か撮影してみた。


    若葉「土成くん、これ気にいるかな?」


    そうこうしているうちに、本日のハイライト。西日が最後の煌めきを
    地平線から眩く光を放っていた。シャッターを押すのをやめ、
    ムービー撮影に切り替える。でも、目で見る迫力や感動を記録できるほど
    便利には出来ていないのだ。さて、すっかり日が落ちてしまったので、
    神殿に向かう。まず手水舎で手を洗い、口をすすぐ。

    う、冷たい。その後、賽銭を賽銭箱に入れる。奮発して100円だ。
    鈴をシャランシャランと鳴らし、再拝二拍手一拝(拝は深い礼)を行なう。
    ついつい合掌をしそうになってしまうが、それは寺院の場合と夕梨さんが教えてくれた。
    けど、つい手を合わせてしまう。習慣はなかなか直らないものだ。
    今日の感謝と明日へのささやかな願いを祈願しつつ、神社を後にしようとすると、
    夕梨さんが出てきた。さっきの懐炉の返却とお礼にと肉まんをくれた。
    使い捨て懐炉の方は、既に夕梨さんの体温のみの温もりになりつつあったが、
    アツアツの肉まんが、夜風の冷たさを十分振り払ってくれるものだった。
    お茶の一杯も欲しいところだが、そこまで贅沢は言えない。
    帰る道中、自販機からミルクティーを買ってチビチビ飲みながら帰宅した。


    2003年4月16日(水)


     完成した絵を少しでも早く見せたかったので、俺は早めに登校した。
    というのも、両親がそれぞれ出張のため、早く家を出る都合もあったので
    それに便乗した形となる。しかし、宇佐見は学校の近所に住んでるせいか、
    始業間際に駆け込んできたので、俺のささやかな努力は徒労に終わることになった。

     一度タイミングが合わないと、とことん合わなくなるようで、
    唯一の希望であった昼休みにも、彼女は屋上に来ることはなかった。

     それも、そのはず。今日は、春特有の朧雲(高層雲)が太陽を
    うすい膜に包み込みミルク色の柔らかい日光にしていた。
    夜になれば、朧月夜になるのであろうか? 早い話が曇りである。
    温暖前線や低気圧が近づいている場合に発生する雲であるため、
    これが次第に厚みを増して灰色が濃くなってくると、乱層雲になる
    らしいが、今日は雨や傘の心配をしなくてもよさそうだ。

     そんな物思いにふけりつつ、今日は校庭を描かず、曇り空を描いていた。
    まるで自分の心を映しているかのよう…と少し自嘲気味に。
    塗っても塗っても終わらない。まるで白い闇のようであった。

     約束したとはいえ口約束だったしな。と、そろそろ授業も
    始まることだし、諦めて帰ろうとした時、バタンと扉が開いた。
    自分以外にいた生徒達も、驚いていたが、一番ビックリしたのは
    俺だったに違いない。何故なら、そこにいたのは宇佐見だったから。


    ra3


    若葉「はー、はー、よかった。土成くん、やっと見つけた」

    首里「どったの。慌てて、それより、もうすぐ授業始まるぜ。」

    若葉「あー、そうか。じゃー、これだけ渡しとくね。続きは放課後」


    と、うさぎ柄のシールを張り付けたピンク色の封筒を俺に押し付けると、、
    現れた時と同じような速さで階段を駆け下りていった。よく転ばないな。


    その場で開封しようかとも思ったが、他人の目も気になるし、
    何より、授業に遅刻する。封筒をノートに挟み、屋上を後にした。
    さて、授業中。机の中で開封してみると何枚かの写真とメモがあった。
    写真は珍しく雲ではなく、夕映えに染まる風景写真であった。
    そしてメモの内容は「此処がどこだか知りたくない?」というもの。

    無論、YESだ。ふと宇佐見の方を見てみると、ちらちらと俺の方を
    見ていたようだ。俺は、不自然にならないようにアゴに手をつくような
    恰好で両手で丸を作る。すると、宇佐見はサムズアップをして、
    それ以降は授業に集中した。「任しといて」ということなのだろう。

    そして、放課後。まっすぐ下駄箱に向かい、待っていた宇佐見と合流する。
    漸く昨日の約束の絵を見せることができる。自転車置き場でカバンを開き、
    彼女に渡す。1年の間から、描きつづっていたので、それなりに量はある。
    以前のモノも気になるようだが、パラパラとめくりつつ、昨日の絵を探しているようだ。


    若葉「うわー、凄いねー。これ、いつから描いてるの?」

    首里「1年の時から」

    若葉「あ、これだ。ホントだ。昨日より一段と克明になっている。
       まるで写真みたい。あれ? この1枚だけは、他のに比べて、
       えらく気合いがはいっているような。それに引き替え今日のは?」

    首里「あはは(図星)。あのさ、写真の場所って、昨日案内してくれるって
       言ってたトコ?」

    若葉「あ、そうだった。土成くん、今日は暇?」

    首里「ああ、今日はたっぷり時間がある」


    という訳で、俺達は制服姿のまま、現地に向かうことにした。


    首里「後ろ、乗る?」

    若葉「いいの? じゃ、お言葉に甘えて。」


    2つの鞄を前のかごに入れ、ペダルを漕ぎ出す。
    宇佐見は、もう一つリュックを持っていたが、そちらは背中に背負うことにしたらしい。
    中身はカメラや弁当箱だと思うのだが、どー見てもそれ以上の容量がある。
    とはいえ、詮索するほど親しくもないので、気にしない事にする。

    目的地には5分もかからずについたが、宇佐見の、お目当ての場所は、
    百数段上の山頂にあるため、自転車は、ふもとに止めることにし、
    鞄を持って歩くことにした。宇佐見は、慣れているのか2段飛ばしに、
    あっという間に駆けて行ってしまった。
    まー、俺は、はじめての参拝ということもあり、物珍しさも手伝って
    スケッチポイントを定めるために左右を見回しつつ一歩一歩踏みしめていた
    ために、1分は待たせてしまったかもしれない。
    しかし、彼女の姿は見えない。怒らせてしまったのか?
    という不安が胸をかけめぐったので、つい呼びかけてしまった。


    首里「おーい、宇佐見さん、どこ行ったんだ?」

    若葉「ごめーん、ちょっと待ってて。」


    と何やらお堂めいたところからくぐもった声が聞こえてきた。
    待つこと、更に1分。「お待たせ」と出てきた宇佐見の姿は
    ジャージ姿であった。「どしたの? それ」と聞くと


    若葉「ここ、夕方になると少し冷えるから着替えてました。
       あ、土成くんは寒くない? 懐炉あるよ?」


    ということで、折角の好意に甘えることにする。
    なるほど、あのリュックには防寒グッズが入っていたのか。
    まー、待ってる間に色々見て歩いて少し分かったことがある。

    此処が谺神社という場所であり、厄除け、方除けのほか、
    全国に二千社近くある猿田彦命神を祭っている一社であることか。

    日本書紀で猿田彦命は、邇邇芸尊の天降りの際に道案内をしたことで
    知られているために、旅や交通安全の神として現在、祭られることもある。

    猿田彦命は鼻長八咫(直径46cm)、背長七尺(240cm)、目が八咫鏡や
    ホオズキのように照り輝いていたということから、天狗のモデルという
    説があったり、白髭明神として全国各地で祭られていたりもする。

    また手塚治虫の漫画「火の鳥」シリーズには、猿田もしくはサルタヒコという
    名前のキャラが登場し、鉄腕アトムのお茶の水博士も、その末裔とされていたりする。

    それはさておき、江戸時代に申(さる)という音から猿田彦命が庚申講に結びつけられた。
    この神社も例外ではないらしい。となると、この界隈には庚申塔があるはずなのだが、見かけたことはない。

    それは、西洋大好きの明治政府が庚申信仰を迷信と位置づけたため、その多くは撤去され、
    また高度経済成長期以降の街道拡張整備工事によって、寺社に移転されたせいかもしれない。

    宇佐見も俺が何かを探しているのに気づいたらしい。


    若葉「何を探してるの?」

    首里「庚申塔」

    若葉「こうしんとう? なーに? それ。塔っていうくらいから高いのかな」

    首里「いや、多分。1~2mの石塔かな。もしかすると、猿が彫ってあるかもしれない」

    若葉「お猿さん? んー、そんなのあったかな。」

    首里「そうだよな。わざわざ、こんな山頂に運ぶの、大変だしな。
       よし、今の忘れてくれ。それより、あの写真、どこで撮ったんだ?」

    若葉「こっち、こっち。神社の裏側」

    首里「なるほど、どおりで見つからないわけだ。」


    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/176/
    ラギヨイ・アチントヤ(8) ~庚申塔 に続く。

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