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    ラギヨイ・アチントヤ(7) ~谺神社からの続き。
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/174/


    ラギヨイ・アチントヤ(8) ~庚申塔


     宇佐見の後ろに続いて、神社の奥。方角的には西に入って行くと、
    鬱蒼とした鎮守の森が開けて、高台があった。
     なるほど、写真で見た景色が広がっていた。

     しかし、頭の中では、ジャージ姿の宇佐見の後姿が無限リプレイ
    されていた。普段、ゆったりしたセーラー服では分からない、
    スレンダーな身体のラインがピッチリとしたジャージのせいで
    強調され、普段はスカートで分からない下半身のラインが…

    …って、何を考えている。絵描こう。あれ? ノートがない。


    ra3


    若葉「はい、また後で見せてね」

    首里「あ、そっか。うん、わかった。」


    深呼吸をして邪念を払う。宇佐見の方も撮影を始めたようだ。
    日没まで後1時間を切った時、東の空にほぼ真円の月が見える。


    首里「そういえば、明日が満月だっけ」

    若葉「でも、雲がこれじゃーね。霞んで見えないよね。
       あれ? こーゆーの、何って言うんだっけ?」

    首里「朧月夜?」

    若葉「ああ、(ポン)♪菜の花畑に~入日薄れ~♪
       見渡す山の端 霞深し♪
       春風 そよ吹く 空を~見れば~♪
       夕月 かかりて 匂い淡し~♪ …あれ?
       朧月夜って、こんな歌詞じゃなかったっけ?」

    首里「ああ、それ1番。2番の歌詞に朧月夜って言葉が出てくる」

    若葉「へー、どんなの? 歌って」

    首里「げげ。宇佐見さんの歌の後に聞かせられないよ。
       うーむ、歌詞書くから、それで許して」

    若葉「ちぇ、ズルイな。まー、よろしい。」


    と、お許しをいただけたので、急いで走り書きをする。
    とはいえ、なるべく綺麗な字であることを心がけて。


    若葉「なるほど、こんな歌詞なのか(コホン)
       ♪里輪の火影(ほかげ)も 森の色も~♪
       ♪田中の小路(こみち)を 辿る人も~♪
       ♪蛙(かわず)の鳴く音(ね)も 鐘の音も~♪」
       ♪さながら 霞める 朧月夜~♪
       ふーん 昔の人は偉いな。歌詞だけで情景が浮かぶもんね」

    首里「昔って言っても明治時代の人だけどね。作詩が高野辰之、作曲は岡野貞一。
       「朧月夜」は1914年に文部省唱歌として発表されたから、約90年前の作品。
       (劇中の2003年から89年前、2008年では94年前)
       他にも「故郷」(1914年)、「もみじ」(1911年) 、
       「春がきた」(不明)、「春の小川」(1912年)とかも
       そのコンビで作ってるみたい。」

    若葉「ねー、土成くん。もしかして、お姉さんいる?」

    首里「いや、何で?」

    若葉「あはは、古い歌のうんちくを語る知り合いがいるもので、そーかなって」

    首里「例えば、どんな?」

    若葉「※”大きな古時計”の原曲(「My Grandfather's Clock」)の歌詞は
       百年じゃなくて90年(Ninety years)だったとか、
       戦前(1940年版「お祖父さんの時計」)の訳詞は、かなり違っていて
       例えば♪今は もう 動かない その時計♪ってゆー部分は、
       ♪時計、時計、お祖父さんの 古時計♪だったとか」
       

    (※「鷲崎健の超ラジ!」の「誰も知らない名曲集」第88回(08/11/15)のネタ)
    http://www.nicovideo.jp/watch/sm5252582


    首里「へぇー、宇佐見さん物知りなんだね。歌もうまいし。」

    若葉「違う、違う。私は受け売り。土成くんこそ、物知り」

    首里「俺は、さっき言った程度のことくらいしか知らないよ。」

    若葉「そっか、けど、私より、その知り合いの人の方が歌うまいよ」

    首里「ふーん。よし、出来た。見る?」

    若葉「あ、出来たんだ。どれどれ。ほほー。いいな。
       私もこれくらい描けたらな。」

    首里「でも、やっぱり写真やビデオには正確さでは適わないよ」

    若葉「それは、そーなんだけど。私の感動は記録できないんだよね。」

    首里「じゃ、宇佐見さんも絵描いてみる?」

    若葉「無理無理無理。私は欲張りだから」

    首里「そっか、でも映像を見たら思い出として再生されるんじゃない?」

    若葉「土成くんはロマンチストだな。私は、その記憶を記録したいの」


    などと、たわいない会話をしていると、突風が吹いた。
    「きゃ」と悲鳴を上げる宇佐見はバランスを崩し、足を滑らす。
    高台の淵で、いつものように踊るようにはしゃいでたのが災いした。
    柵はない。俺は思わず駈け出した。まにあえー!!!

    何とか手が届き、力いっぱい引っ張る。おかげで、宇佐見さんを
    助け上げることはできたが、今度は自分が勢いづいて止まらない。
    態勢を崩した俺に突風が吹く。終わった…と思ったが、高台は思ったより低かった。

    3m。なら、着地さえうまく行けば何でもないはずだったが、
    あいにく、そこには石碑が生えていた。
    2mほどの。その角に額をしこたまぶつけて、頭の中に火花が散った。
    幸い、周りに1mほどの茂みがあったので、大事にはいたらなかった…
    という安心をするには、まだ早かったようである。

    まさか、パニック状態になった宇佐見が助けようとしたのだとは思うが、
    足を滑らせた結果、俺の顔面めがけてヒップドロップをかましてくるとは、
    予想だにしなかったのである。流石の俺も気を失った。


    目覚めた時は、すっかり辺りは暗くなっていた。
    おデコの辺りがズキズキするが後頭部は柔らかい。何だ、これ?
    焦点が合うと、涙を流している宇佐見さんの顔が見えた。


    首里「宇佐見さん? どっか痛いの?」

    若葉「ウエーン… (ハッ )土成くん? 良かった、気づいた」

    首里「いてて、うわ、すっかり暗くなっちゃったな。
       宇佐見さんは怪我してないの?」

    若葉「土成くん、動いちゃダメだよ。今、救急車呼ぶから。」


    ガバッ…と上半身を起こす。冗談じゃない。


    首里「ほら、大丈夫。膝枕ご馳走様でした。」

    若葉「本当に大丈夫なの?」

    首里「うん、若干痛いけど、頭はすっきりしている。
       それより、此処、どーやって登ろう?」

    若葉「あー、それなら、脇から回り道をすれば登れるけど」

    首里「そっか。それにしても、何に頭ぶつけたんだ?」

    若葉「??信仰。って書いてあるね。あ、3匹、石のお猿さんがいるよ」

    首里「こんなところにあったのか。宇佐見さん、これだよ。」

    若葉「何だっけ? ??塔 そーいえば、
       夕梨さんも明日が??の日って言ってたような。」

    首里「これは、庚申塔だけど、誰? その、ユーリさんって?」

    若葉「あ、さっき言ってた歌のうまい人のこと。此処の巫女さん」

    首里「へー。もしかして、??の日って、庚申の日って言ってた?」

    若葉「うん、それ。コーシンの日って言ってた。それって何?」

    首里「そーだな。とりあえず、上に戻りながら話そうか。立てる?」

    若葉「ありがとう。もしかして、このコーシン塔って言うのにも関係あるの?」

    首里「えーと、道々。おー、あった。宇佐見さん、この申って言う字見覚えない?」

    若葉「申す…って、言う字だよね。」

    首里「干支の一つなんだけど、見覚えない?」

    若葉「干支って、十二支のことだよね。子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」
       あー、申ってお猿さんのことか」

    首里「そう、此処は猿田彦命を祀ってるみたいだから、三猿も掘られていたみたい。」

    若葉「サンエン? えーと、サンは3匹でエンはお猿さんのことか。
       けど、皆、形違ったね。あれ? あの、格好どっかで見たことあるような?」

    首里「多分、見ざる・聞かざる・言わざるのことだと思うよ。」

    若葉「箕笊?、着飾る?、岩猿?」

    首里「宇佐見さん、絶対、違うこと考えているでしょ? そうだな。
       3匹の恰好を思い出してみて、それぞれは顔のどこを押さえていた?」

    若葉「えーと、目と耳と口だっけ? あ、見ない。聞かない、言わないってことなのか?
       けど、何で? どれも、ないと生活に困るでしょ?」

    首里「そこで、関係してくるのが庚申信仰なんだよ。」

    若葉「知らない。何、それ? あ、高台見えた。そーいえば、土成くん鼻血止まった?」

    首里「へ?」


    そーいえば、話づらいと思った。恐る恐る鼻に詰められたティッシュを
    引き抜くと、ガビガビに固まった血が引っかかり、鼻水が糸を引いた。
    チリトリを見つけたので、そこに捨てさせてもらう。


    若葉「とりあえず、顔洗った方がいいよ。私もそうしよう。こっちこっち。」


    その前に鞄やノートを拾う。宇佐見もカメラをリュックに入れ、鞄を回収したので
    手水舎に案内される。2人で大人しく顔を洗う。ついでにうがいもさせてもらう。
    さてと、ハンカチを出そうとしたら、タオルが差し出された。


    首里「何から何まで、お世話になっちゃ悪いよ。」

    若葉「いいから使って。私の気がすまないから。」


    反論できない迫力を感じたので、受け取って、ありがたく使わせてもらう。
    そーいや、制服も汚れてるな。こりゃ、帰って洗わないとな。


    首里「お湯で洗えば、落ちるかな? この血の染み」

    若葉「ダメだよ。血は加熱すると凝固して取れなくなっちゃうから。
       酵素入り洗剤でじっくり浸けこんでから、揉み洗いが一番かな」

    首里「ふーん。物知りだね。流石、女の子。参考になるよ。」

    若葉「まー、私は多いから…じゃなくて。土成くんのお母さんも知ってるよ。きっと」

    首里「あ、お袋も親父も、今日からしばらく出張。
       今週末までは帰ってこないかな」

    若葉「ええっ? ご飯とかどうするの?」

    首里「コンビニ・レトルト・外食、よりどりみどりかな。」

    若葉「洗濯は?」

    首里「気が向いたら。まー、流石にこの血のついた制服は
       今日中に洗っておかないとやばいよな」

    若葉「ねー、代わりに洗おうか? その制服」

    首里「そりゃ助かる…と思ったけど、ちょっとこれ脱いで
       自転車で帰るのは、流石に寒いわ。」

    若葉「あ、そーだ。頭打ったんだから、病院に行った方がいいよ」

    首里「大丈夫。大丈夫。もうすっかり痛みは引いたし。
       そんなことより、宇佐見さんこそ、送って行こうか」

    若葉「私はすぐ近くだから、いいけど。うー、心配だな。
       そうだ。土成くん、今、携帯電話持ってる?」

    首里「? ああ。ほら、此処に」

    若葉「よし、それなら、エイ」

    首里「何? その赤い光。」

    若葉「あれ? 赤外線通信で今、私の電話番号を転送したんだけど…
       もしかして、土成くんの携帯ってメールできない?」

    首里「うん。特に使わないだろうし。」

    若葉「うう、マジですか。なら、その携帯貸して(ピポパ)
       はい、私の携帯番号、短縮ダイヤルの4番に登録したから。」


    (首里の携帯には1番は土成家、2番は父親の携帯、3番は母親の携帯番号が
     登録されていた。つーか友達いないのか? つきあい悪いなwww)


    首里「おお、凄いな。流石、カメラマン。
       宇佐見さん、機械系全般強いの?」

    若葉「いいから、その4番で電話してみて。」


    言われるままに電話してみる。プププ…プルルル…プルルル…。カチャ…つながった。


    若葉「「はい。もしもし、宇佐見です。」」

    首里「「あ、俺、土成だけど」」


    目の前にいる宇佐見の声が電話越しにも聞こえて、
    ステレオみたいで不思議な感じ。あ、切れた。


    若葉「よし。いい? 土成くん。何かあったら、電話してきて。」

    首里「分かった。」


    言い知れぬ迫力に、言われるままな自分に苦笑してしまう。
    それを見て、張りつめていた宇佐見がキョトンとしている。
    そうだな。よし。鞄を開き、ノートを取り出し、宇佐見に渡す。


    若葉「何?」

    首里「あげる。せめてもの今日のお礼とお詫び」

    若葉「いいよ。貰えないよ」

    首里「じゃ、貸すから、そのうち感想を聞かせてよ。
       今後の参考にするから。」

    若葉「それなら、分かった。しっかり見せてもらって
       感想を言うよ。」

    首里「じゃ、帰ろう。あー、お腹減った。」

    若葉「そだね。」


    急いで階段を降りる。宇佐見も負けていない。
    1段飛ばしが2段飛ばしになり、3段、4段と
    競争になり、つい負けん気を起こして10段飛んでしまった。
    よし、勝ったと思ったが、何故か、悪感がしたので、
    とっさに、その場を半歩飛び退く。予感的中。そのままでは、
    後頭部に二―ドロップを食らうところだった。
    ズザザ、玉砂利を3mは堀り起こし、宇佐見は何とか着陸した。


    首里「あのさ、何で、俺が飛んだら後追うの?」

    若葉「だって、負けたくないもん。」

    首里「じゃ、送るよ。」

    若葉「うーん。それじゃ、お言葉に甘えて。」


    それからは、特に話すこともなく、俺は宇佐見の言われるままに
    自転車を漕いだ。思わず、学校に帰っているのかと思ったが、
    その手前で止まることを指示される。それまで、俺の肩に手を置いて
    しがみついてた宇佐見は、ギュと抱きついてきた。
    少し首が締まるが、それよりも背中に柔らかい感触が2つ押しつけられた。


    若葉「いい? 帰ったら、電話してよね。土成くん。」

    首里「り、了解。30分後には連絡するよ」

    若葉「よし、それじゃ、また明日ね。頭痛かったら、病院行くんだよ」

    首里「はいはい。それじゃ、明日学校でな。」

    若葉「その前に電話も忘れちゃ、ダメだよ」


    などと、声が聞こえなくなっても、俺が角を曲がり、姿が見えなくなるまで、
    ずぅっと、家の中に入ろうとしなかった。
    こりゃ、少しでも早く帰って電話してやらないとな。


    「ラギヨイ・アチントヤ(9) 大可如弥」 に続く。
    http://namiokasougo.blog.shinobi.jp/Entry/213/

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